🐾1 ペットが飼い主のメンタルヘルスに与える影響
— コロナ禍が教えてくれた、“そばにいる”という力 —
1. あなたのペットがくれる“静かな支え”
あなたのペットがそばにいるだけで、心がふっと落ち着いたり、安心したりすることはありませんか?
コロナ禍で世界が閉ざされ、人との関わりが制限されたあの時期。そんな中で、「ペットの存在が私たちの心にどんな影響を与えたのか」を科学的に検証した研究が発表されました。
今回ご紹介するのは、ペットと過ごす時間が、どのように私たちの心の健康を支えてくれるのかを明らかにした最新の調査です。
この研究は、英国とマレーシアに拠点を置く Heriot-Watt University の心理学チームが実施したものです。対象となったのは、マレーシア在住の成人448名。うち半数がペットを飼っている人たちでした。結果は国際学術誌 「Animals」に掲載され、査読付きの信頼性ある論文として2021年に公開されています。論文タイトル: “The Effect of Pets on Human Mental Health and Wellbeing during COVID-19 Lockdown in Malaysia”
2. 研究の概要 — ペットの力をデータで見る
研究チームは、コロナによる外出制限中にオンライン調査を実施しました。
質問項目は次の通りです:
- 幸福度
- 不安・抑うつ・ストレス
- 回復力(レジリエンス)
- 困難に立ち向かう自信(自己効力感)
- ポジティブ/ネガティブ感情
さらに、単なる「飼い主 vs 非飼い主」だけでなく、
- 犬派 vs 猫派
- 人+ペットとの同居 vs 人間だけとの同居
といった観点からも分析を行いました。
3.結果と結論 — ペットの「癒し」は、確かに存在した
調査の結果、ペットを飼っている人たちは、飼っていない人に比べて
- 気持ちの切り替えが上手
- 前向きに過ごせる
- 幸福感が高い
という傾向が明確に見られました。
一方で、不安やストレスなどの深刻な心理症状については大きな差はなく、ペットが“治療的効果”をもつわけではないことも示されています。
🐾 ペット飼育者 vs 非飼育者の比較(Table 2)
| 測定項目(心理指標) | ペットを飼っていない人 M ± SD | ペットを飼っている人 M ± SD | 統計値 (F値) | 有意差 (p値) | 結果の意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| 心理的ウェルビーイング(幸福感) | 42.60 ± 10.70 | 46.52 ± 10.77 | 10.56 | p = 0.001 | 飼い主のほうが幸福感が高い |
| 抑うつ(Depression) | 25.50 ± 9.84 | 24.15 ± 9.45 | 1.13 | p = 0.29 | 差なし |
| 不安(Anxiety) | 23.24 ± 8.74 | 22.54 ± 8.58 | 0.54 | p = 0.46 | 差なし |
| ストレス(Stress) | 25.67 ± 9.68 | 24.54 ± 9.10 | 0.92 | p = 0.34 | 差なし |
| 回復力(Resilience) | 18.60 ± 3.28 | 19.41 ± 3.11 | 4.81 | p = 0.03 | 飼い主のほうがレジリエンス高い |
| 自己効力感(Coping Self-Efficacy) | 86.42 ± 16.95 | 90.67 ± 16.50 | 5.73 | p = 0.017 | 飼い主のほうが困難への自信が強い |
| ポジティブ感情(Positive Emotions) | 30.08 ± 7.85 | 32.58 ± 7.64 | 6.91 | p = 0.009 | 飼い主のほうが前向き感情が高い |
| ネガティブ感情(Negative Emotions) | 25.26 ± 8.22 | 24.81 ± 8.08 | 0.21 | p = 0.64 | 差なし |
出典:Grajfoner, D. et al. (2021). Animals, 11(9), 2689.20251027 animals-11-02689
さらに興味深いのは、猫の飼い主のほうが犬の飼い主よりも幸福感とポジティブ感情が高かったという点です。
また、人間だけでなくペットとも暮らしている人のほうが、より強い自己効力感(困難に立ち向かう自信)を持つ傾向がありました。
🐕🦺 犬と猫の飼い主の比較(Table 4:Dog vs Cat Owners)
| 測定項目(心理指標) | 犬の飼い主の平均値 (M) ± SD | 猫の飼い主の平均値 (M) ± SD | 統計値 (F値) | 有意差 (p値) | 結果の意味 |
|---|---|---|---|---|---|
| 心理的ウェルビーイング(幸福感) | 43.80 ± 10.24 | 47.94 ± 11.13 | 7.35 | p = 0.007 | 猫の飼い主の方が幸福感が高い |
| 抑うつ(Depression) | 23.56 ± 8.37 | 25.08 ± 10.84 | 1.25 | p = 0.27 | 差なし |
| 不安(Anxiety) | 21.90 ± 7.92 | 23.05 ± 9.32 | 0.88 | p = 0.35 | 差なし |
| ストレス(Stress) | 23.77 ± 8.28 | 25.93 ± 10.40 | 2.66 | p = 0.10 | 差なし |
| 回復力(Resilience) | 19.11 ± 2.73 | 19.28 ± 3.67 | 0.14 | p = 0.71 | 差なし |
| 自己効力感(Coping Self-Efficacy) | 88.29 ± 14.33 | 89.29 ± 19.47 | 0.18 | p = 0.67 | 差なし |
| ポジティブ感情(Positive Emotions) | 30.70 ± 6.60 | 33.15 ± 8.63 | 5.22 | p = 0.023 | 猫の飼い主の方がポジティブ感情が高い |
| ネガティブ感情(Negative Emotions) | 24.86 ± 7.26 | 25.15 ± 8.94 | 0.06 | p = 0.81 | 差なし |
出典:Grajfoner et al. (2021). Animals, 11(9), 2689.20251027 animals-11-02689
4.まとめ
ペットは、孤独で不安な時期に「心の支え」となり、
日常を前向きに過ごす力を静かに後押ししてくれる存在であることが確認されました。
5.飼い主への気づき — マインドフルに“そばにいる”ということ
この研究から、私たち飼い主が学べることは少なくありません。
- ペットは「癒し」だけでなく、自分の感情を整えるパートナーでもある。
- ストレスが高いときほど、ペットと静かに過ごす時間を意識してみる。
- 猫のように穏やかなペットも、存在そのものが安心感を与えてくれる。
- ペットを通して「今この瞬間に気づく」— それこそがマインドフルネス。
ペットと目を合わせ、呼吸をそろえ、何もせずに過ごす数分間。
その時間が、あなたの心を少しずつやわらげてくれるはずです。 ペットとの関係は、言葉のない“対話”のようなもの。
その静かなやり取りの中に、心の回復や安らぎが宿っています。
マインドフルな視点でペットと向き合うことは、
あなた自身のウェルビーイングを高める最もやさしい方法なのかもしれません。
出典
Grajfoner, D., Ke, G. N., & Wong, R. M. M. (2021).
The Effect of Pets on Human Mental Health and Wellbeing during COVID-19 Lockdown in Malaysia.
Animals, 11(9), 2689. https://doi.org/10.3390/ani11092689

