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Animal Welfare

🐾15 アメリカで野良猫が少ない? 本当の事情と見落とされがちな現実 ― 殺処分数・法罰・地域差を含めた徹底比較

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一見「野良猫が少ない国」として語られがちなアメリカ。しかし、殺処分数の多さや地域ごとの格差、法制度の限界、NPOの抱える課題を見逃しては、「善意による保護」が机上の空論に終わる可能性があります。 本記事では、制度や文化だけでなくデータと現実の“両面”から、アメリカと日本の違いを深掘りします。

目次

殺処分数と飼育数の実情

米国の現状 ― 安楽死(Euthanasia)の数

米国では、近年も保護施設(シェルター)での殺処分が多数報告されています。例えば、2023年の統計では、年間で多数の犬・猫を含む動物が安楽死されたと報告されています。 Shelter Animals Count 2023 Annual Analysis では、全米で多くの動物が euthanasia(安楽死・非生存アウトカム)に至っている現状が示されています。

つまり:アメリカで野良猫が少ないという見方は、「街で見かけにくい」という印象にすぎず、殺処分数そのものは決して少なくないのが現実です。

猫の飼育数 / 所有数の違い

一方で、米国では猫の飼育率・所有率が高く、ペットとしての飼育が進んでいます。これが「野良猫の割合を下げる」背景のひとつです。
ただし、飼育されている猫の数が多いからこそ、放棄や迷子、虐待などの問題が起きやすい構造もあります。

なぜ「野良猫が少ない」と言われるか ― 背後にある要因

① TNR(Trap–Neuter–Return)の普及

多くの地域で、捕獲 → 不妊・去勢 → ワクチン接種 → 元の場所に戻す「TNR」が公的・民間で実施され、繁殖を抑える仕組みが整えられています。これが長期的にコミュニティキャットの数を抑える大きな要因です。 Alley Cat Allies — Why TNR?

② 室内飼育文化と飼い主の責任意識

外に出さない「indoor-only」の飼育スタイルや、飼い主に対する責任感・管理意識が比較的高く、放し飼いや遺棄が文化的に否定されやすい環境があります。これにより、新たな野良猫が増えるリスクが抑えられている面があります。

③ シェルター/NPO の受け皿と資金力

全米には多くの動物保護団体(大規模な NPO を含む)があり、シェルター運営や TNR、譲渡プログラム、低価格医療、移送など多様な支援が可能です。特に大手団体では、一定の財政基盤を持ち、全国規模の支援を行っています。これは保護体制の強さにつながっています。 しかし、この「資金力と規模」は地域や団体によって大きな差があります。

法制度と罰則・処罰の現状

米国:州ごとの法律と実際の処罰数

米国ではすべての州で動物虐待や遺棄を禁止する法律があり、多くの州で重罪(felony)として処罰が可能です。Humane World for Animals — Animal cruelty stats によれば、重大な虐待や放置にはかなりの法的リスクがあります。

気をつけたいこと:「起訴された事例」はごく一部で、すべての虐待や遺棄が検挙・処罰されるわけではありません。報告制度、通報の有無、州ごとの執行力の差によって、実態が見えにくい部分があります。

日本:動物愛護管理法と最近の摘発数

日本では「動物の愛護及び管理に関する法律」によって遺棄や虐待が禁止されており、罰則(罰金など)が定められています。法律全文(e-gov)。しかし、最近(2022年)の統計では、全国で摘発されたのは 166 件/187 人と報告されており、全体から見ると非常に限定的です。朝日新聞 動物虐待摘発数報道

つまり、法の存在はあっても、実際に罰せられる割合・通報・執行のハードルの高さが、制度の有効性を左右するということです。

地域差 ― 米国内で「野良猫が多いエリア」はあるのか?

はい、あります。特に暖かい気候の州(南部や南西諸州)では、TNRやシェルター網が十分でなかったり、放し飼いや放棄が起きやすい地域も報告されています。例えば、Shelter Animals Count によると、一部州では euthanasia(殺処分や非生存アウトカム)の割合が他州より高いというデータがあります。

また、都市部と郊外、農村部では猫の暮らし方や制度の届きやすさに差があり、この差が「野良猫の多さ・少なさ」の地域差につながっているようです。

つまり:「アメリカ=野良猫が少ない国」というイメージは、地域や州によって大きく異なる“平均論”に過ぎず、場所によっては日本より問題が深刻ということもある、という現実があります。

アメリカ制度の課題と、日本の強み ― 単純比較では見落としがちな視点

● 制度の不均一性と地域間ギャップ

米国では、州によって法の厳しさ、シェルターやNPOの数、資金力、地域の意識が大きく異なります。資金力のある州・団体では制度が機能しますが、そうでない地域では猫の放置・遺棄・放し飼いが残りやすいという不均一性があります。

● 殺処分数の多さ —「少ない」という誤解への警鐘

前述のように、米国は安楽死数・処分数で依然として高い数値を記録しており、「少ない国」という表現は実態を見落としている可能性があります。特にシェルターの収容能力を超えると euthanasia が行われやすくなります。

● NPO/ボランティアの負荷と持続可能性の問題(日本も共通)

日本では団体規模が小さく、ボランティアに依存している団体が多く、資金や人手の限界で活動が継続しにくいという声があります。この課題は、制度があっても実践が追いつかない「制度疲労」を招きやすいです。
たとえば、TNRを始めても獣医代や薬代、捕獲器のコスト、ケア後の世話などが負担となり、ボランティアが心身ともに疲弊してしまうという報告があります。日本の動物虐待通報・相談データ(2023年度) 虐待や遺棄の相談数は一定数存在します。

● 法制度・通報・執行の限界

米国でも「動物虐待禁止法」はありますが、通報されない・発覚しないケースは多く、また地方によっては検挙・起訴・実効刑まで至る割合は低いとの指摘があります。New York における虐待報告数の一例 なども報告されています。つまり、制度があっても「見えない犠牲」が残る可能性があります。

● 日本の強み ― 社会的規模と集中力の可能性

日本では小規模ながらも地域で密なコミュニティがあり、制度疲労に陥りにくい地域もあります。また、法律が全国統一であり、虐待・遺棄への社会的な批判や意識は高まっています。この点では、制度の一貫性という面でアメリカより優れている可能性があります。

参考文献・リンク

※ 本記事は公的データおよび主要団体の公開資料を基に編集部が分析・執筆したものです。地域差や年次差がありますので、最新情報は各自治体・団体の発表をご参照ください。

ABOUT ME
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ブロガー/獣医師・博士(獣医学)/DVM Ph.D.
心でつながるペットケア、やさしい科学をモットーに、最新の研究情報について発信している。
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