🐾16 災害時のペット同行避難の現実――研究が示す“理想と現実”のあいだ
近年、「ペットは家族だから一緒に避難したい」という考え方が広がり、行政も「同行避難」を原則とする方針へと動き始めました。 しかし、実際の災害現場では、理想どおりにいかない場面がまだまだ多いことが、国内外の研究から見えてきています。
この記事では、複数の学術研究や実際の災害対応の報告をもとに、ペット同行避難のメリットと限界を丁寧に整理し、 飼い主が「いざ」というときどのように備えるべきかを考えていきます。
1. そもそも“同行避難”とは何か?
同行避難とは、災害の際にペットと一緒に避難所まで向かうことを指し、ペットと同じ空間で生活できる「同伴避難」とは異なります。 多くの避難所では、衛生やアレルギー、スペースの制約から、居住スペースは人と動物を分ける運用が基本です。
この考え方は、人の安全と動物の安全を両立させるために設けられたものであり、決してペットを「排除する」思想ではありません。
2. 研究が示す“避難の現実”:理想が阻まれる理由
災害時のペット同行避難をめぐる問題については、いくつかの研究が明確なデータを示しています。
① 避難所の受け入れ体制が整っていない
日本の都市部205か所を調査した研究(2022)では、約半数の避難所が「ペット受け入れの方針が未定」であることが明らかになりました。 最も大きな理由は、スペース不足・衛生管理・アレルギー対策など、運営上の制約です。
② 事前準備の不足が「避難失敗」につながる
海外の洪水調査では、キャリーの未準備や屋外飼育が原因で、ペットを連れて避難できなかった家庭が多いことが確認されています。 同行避難は「行きたい」という気持ちだけでは実現しにくく、日頃の準備が成功のカギになります。
③ 飼い主とペット双方の心理的ストレス
研究は、ペットを避難所に連れていけない状況が続くと、飼い主の精神的負担や罪悪感が長期化するという影響も指摘しています。 ペットを置いて避難した場合の心的外傷、迷子や放棄による社会的コストも無視できません。
3. 同行避難には、どんな“メリット”があるのか?
- 飼い主の精神的安心につながる
- ペットの健康・安全が確保される
- 避難後の捜索・保護コストが減る
とくにストレスの軽減は大きく、同行避難は人と動物の双方の福祉を高める方法として国際的に推奨されています。
4. それでも残る“限界”――解決すべき課題
ただし、現実には解決すべき課題も少なくありません。
① 受け入れスペースが不足している
体育館・公民館など既存の避難所は、動物を想定して作られていないため、スペースや分離ゾーンの設置が難しいのが実情です。
② 運営側の人的負担
動物アレルギー、吠え声、排泄処理など、運営スタッフにかかる負担が大きく、 「受け入れたいが対応しきれない」という声も多くあります。
③ 避難者間のトラブル
動物が苦手な人、アレルギーのある人との調整、スペースの公平な配分など、現場での合意形成は簡単ではありません。
5. 飼い主ができる“現実的な備え”
では、研究と現場の知見から見えてくる「本当に準備すべきこと」とは何でしょうか。
① まずは「キャリー・ケージ」を常備する
どの研究でも共通しているのは、これが同行避難の成功率を大きく左右する点です。
② ペットの普段からの社会化と慣らし
- キャリーに入る練習
- 人混みや他の動物への慣れ
- 基本的なしつけやハンドリング
③ ワクチン・健康管理・迷子対策
避難環境では、健康リスクが高まるため、日頃のケアが欠かせません。
④ 自治体の「受け入れ方針」を事前に調べる
地域によって、受け入れ状況は驚くほど違います。 事前の情報収集が、避難の混乱を大きく減らします。
6. “理想”だけでなく“現実”を知ることが、最善の防災になる
ペットとの災害対策は、どうしても「こうあるべき」という理想が先行しがちです。 しかし、研究や実例を見ると、現場では多くの制約のなかで最善を模索していることが分かります。
だからこそ、飼い主の私たちは、 「行政が何とかしてくれる」ではなく「自分が準備する」という姿勢が一番の備えになります。
大切な存在であるペットの命を守るために、 今日からできる小さな準備を積み重ねていきましょう。
参考文献
- American Journal of Public Health, “Evacuation of Pets During Disasters: A Public Health Intervention to Increase Resilience” (2017)
- Risk factors for pet evacuation failure after a slow-onset disaster (2001)
- Disaster Preparedness for Accepting Companion Animals in Urban Evacuation Shelters in Japan (2022)

